Light Fantasia

オウカという国には各国から腕自慢が揃う冒険者組合がある。
 名(迷)物補佐官でありながら冒険者でもあるファニィ、美貌の怪力美女ジュラフィス、
健気で超天才児のコートニス、生真面目で世話やき基質のタスク。
 凸凹四人組が織りなすハチャメチャファンタジー!


なろう版

     タスク・カキネ

「よう、新人」
 冒険者組合の寮に案内された俺が、室内の設備を確認していると、開けっ放しのドアがノックされて誰かが声を掛けてきた。
 しばらく使われていなかった部屋らしく、少し埃っぽかったので、不用心かと思いながらも換気のために窓とドアを開けたままにしておいたんだが、やっぱり不用心過ぎただろうか?
「おっと、挨拶挨拶。ハジメマシテだな、新人。いやー、最近、全然新人が入ってこなくてさぁ。お前、久しぶりの新人だよ」
 煤けた金髪に小太りの体型。だがなかなか愛嬌のある顔立ちの男だ。推測せずとも、俺にとって彼は先輩になる。組合の寮に、外部の人間は入れないとの事だからな。

「はじめまして。俺はタスク・カキネといいます。今日からこちらでお世話になります。よろしくお願いします」
 先輩には挨拶しておかないと。
 いい歳ぶら下げて、挨拶しなかった新人を集団リンチなんて馬鹿げた事はないだろうが、悪い印象を与えるより、いい印象を持たれた方がいいに決まってる。これから当分世話になるんだし、おとなしくしておこう。

「おう、タスクね。その刺青、ジーンの出身か?」
「はい。修行中ですが魔法使いです」
「なるほど。どうやら元締め様にもファニィちゃんにも気に入られたみたいだな。この組合って、元締め様が気に入っても、ファニィちゃんが気に入らないと追い出されちゃうからなぁ」
「ファニィ……さん?」
 聞きなれない名前を聞き、それが面接の時に元締めの側にいた補佐官と名乗る彼女の名前だった事を思い出す。組合には入ったけど、上層部の人間とはあまり関わる事はないだろうから、あんまり記憶に残っていなかった。
「補佐官やってる赤いバンダナがトレードマークの女の子がいたろ? 若いけど仕事はできるし組合でも人気があって、みんな気軽にファニィちゃんって呼んでるんだよ」
「そうなんですか」
 随分若い補佐役だとは思ったが、こうして組合の面子から認められているという事は、彼女の実力は相当だって事なんだろう。
 でも彼女は組合の仕事をしているより、町の市場なんかで果物や花を売る店の元気な看板娘といった印象なんだけどな。人は見掛けによらないものだ。

「へぇ、ジーンの魔法使いねぇ……」
 先輩は俺の頬の刺青をまじまじと見つめる。
 ジーンでは魔法使いの証として、物心付く前に顔に何らかの刺青を彫る風習がある。古代の魔法の力を込めたもので、これが無いと魔法は簡単には行使できない。逆に言えば、刺青を彫れば、ごく初歩の魔法なら誰でも行使できるようになるという事だ。
 だからこそ、刺青の形、つまり古代魔法紋章はジーンでは特に厳重に管理されて、代々伝えられる神聖なものだった。
 その割には選ぶ形や大きさは親の好みとその時のインスピレーションであっさり決まったりするんだが。ジーン出身者にとっては一生モノの刺青を、そんな安易に決めてほしくないと思っているのは俺だけじゃないはずだ。
俺の刺青は炎に複数の円を重ねたもので、右頬にだけ彫られている。俺の姉貴なんか、額に目玉みたいな幾何学模様だから、遠目には目が三つあるように見えるんだ。
俺がガキの頃に「姉貴は刺青のせいで三つ目の化け物みたいだ」と率直な感想を述べたら、魔法金属の杖で本気でぶん殴られて、額をカチ割られた経験がある。魔法金属は鉄なんかよりもっと硬いんだぞ! あの時は顔中血塗れになって、本気で姉貴に殺されるかと思ったぜ。

「タスクは魔法以外に特技とかってあるのか?」
「特技。そうですね……」
 俺はしばらく考え、ポンと手を打った。

「特技というか、家事全般が得意です」

 先輩の口がポカンと開いたまま固まった。
 あれ? 俺、なんか変な事言ったかな? もしかしてオウカでは家事は専門職とか? まさかな。
 俺、生まれてからジーンを出たのは今回が初めてだから、他の国の流儀やお国柄にはちょっと疎いんだよな。勉強しねぇと。
「あ、オウカでは家事って言い方しないんですか? えーと、料理とか洗濯とか掃除とか。つまり家の中の用事全般です。あ、でも子守りは苦手ですね。子供の相手は得意じゃないんで。その代わり料理はかなり得意ですよ」
 ガッツポーズを見せると、先輩がますます頬を引き攣らせる。
「銀鮭のシチューはかなり自信ありますよ。今度厨房借りて作りますから食いますか?」
 俺が言うと、先輩が弾けるように体の硬直を解いた。
「お、お前その顔で料理なんかすんの? 料理なんて女の仕事じゃないか」
「変ですか?」
「いや、その。お前、自分の見た目、鏡で見た事ある? 魔法使いって割にはガタイはいいし、厨房に立って包丁持って鍋振るって姿がマジで想像できねぇ」
 そう言われてみれば、故郷でも俺が家の事をほとんど任されてると遠方の親戚に言ったら変な顔されたっけ。男が家事するのって、世間的にはおかしな事だったんだろうか? 実家じゃ俺も親父も、お袋や姉貴の言いなりだったんだが。
 ……ジーンは女王統治のお国柄だから、男の立場が女より弱いってせいもあるのかも。

「はぁ……俺のところじゃ普通でしたけど、こっちでは違うんですね」
「はは、は。まぁ、その内食わせてもらうよ」
 先輩がやれやれと首を振る。だがふいに顔を上げて、俺の腕を掴んだ。
「料理が得意って言ったな!? かなり上手いのか? 美味いのか?」
「はい?」
「腕は確かなのかって聞いてるんだ!」
「ええと……身内や親戚には結構評判良かったですけど……あとご近所同士の立食会とかでも……」
 半ば脅されるように答えると、先輩が大きくウンウンと頷いた。
「よし! じゃあお前、組合の厨房で専属バイトしろ!」
「へ?」
 いきなり意味が分からない。
「ウチの組合の飯、すっげー不味くてさぁ。それもこれも組合員の交代当番制だからなんだけど。ファニィちゃんにもちゃんとした料理人を雇ってくれって言ってるんだけど、そんな予算はないって一蹴されちゃってさ。ウチの組合員は不味い釜の飯を分け合って食っているんだ。憐れと思わないか?」
「はぁ……」
 せっかくの飯が不味いのは俺も勘弁だし、大人数の料理を作るのは不得意と言う訳ではない。
「ここだけの話、新人組合員の給料なんて雀の涙だぜ? いくら寮住まいだってまともに食ってけないぜ? だからバイトしろ。今すぐしろ。後生だからバイトしろ」
「そ、そうなんですか? ここなら衣食住に困らないと思ってたんですが」
「甘い。世の中そんなに甘くない! タスク、頼むから厨房でバイトしてくれ!」
 先輩が必至の形相で俺に懇願してくる。この様子、よほど飯が不味いらしい。人間とは食い物で左右される生き物なんだなぁ。
「……分かりました。とりあえず部屋を片付けてから厨房に伺います」
「よしっ! サンキューな! あ、名乗り忘れてたけど、おれはイノス。組合の薬師やってるんだ」
 薬師のイノス先輩ね。これから先、組合で上手く立ち回るために、仲のいい相手を作っておくに越した事はない。先輩のお節介は俺にとっても好都合だ。
 利用させてもらうと言えば聞こえは悪いが、俺だって労力を提供するんだ。お互い様だって事で。
 俺は先輩を見送ってから、急いで宛がわれた寮の部屋を片付けた。

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