Light Fantasia

オウカという国には各国から腕自慢が揃う冒険者組合がある。
 名(迷)物補佐官でありながら冒険者でもあるファニィ、美貌の怪力美女ジュラフィス、
健気で超天才児のコートニス、生真面目で世話やき基質のタスク。
 凸凹四人組が織りなすハチャメチャファンタジー!


なろう版

       2

 食べたくないと思っていても、時間が経てば空腹はやってきます。エイミィさんを失った時は本当にいらないと思っていたのに、どうして今回はおなかが空くのか分かりません。たぶん、エイミィさんの時より、心に受けたショックが少ないからだと思います……。

 外はすっかり暗くなり、もう夕食の時間です。僕は寮のすぐ外にある植え込みの陰に、お昼からずっと隠れていました。誰にも会いたくなかったんです。
 タスクさんはまだ会ってから日も浅いですから仕方ないですけれど、ファニィさんは僕のことなんて、もうすっかり理解してくださっていると思っていました。姉様は……どんな時でも絶対に僕の味方をしてくださると思ってました。今までずっとそうでしたから。
 だけど……今日、僕は皆さんから、僕がだめだと責められました。僕がいけないのだと、姉様からも。
 ……僕が……悪いのは分かっています。皆さんが仰ることが正しいと分かっています。でもいやなものはいやなんです。僕だって偏食は徐々に治していきたいとは思っていましたけれど、でも今日言って今日すぐなんて、あまりに急で、心の準備が出来ていませんでした。だから僕、つい逃げ出してしまったんです。癇癪を起こして、僕、すごくみっともないです。
 ……姉様だけは、味方してくれると思ってたのに……。
「コート。そこにいまして?」
 姉様の声がして、僕は思わず植え込みから立ち上がってしまいました。姉様は僕の姿を見て、にこりと笑い掛けてくださいます。
「良かったですわ、見つかって。ずっと捜していましたの」
 僕がお昼に食堂から逃げ出してから、ずっと……でしょうか。
「……ごめんなさい……」
「わたくし、コートの大好きなクッキーをお部屋に用意してますの。おやつの時間には少し遅くなってしまいましたけれど、一緒にいただきましょう。ね?」
 やっぱり姉様は僕の味方でいてくださったのですね。僕は嬉しくなって、植え込みから抜け出して姉様にしがみ付きました。
「うふふ。もう一人で行ってしまってはいけませんことよ。ねぇ、コート」
「はい、姉様」
 姉様は僕の帽子を取って、直に僕の髪を撫でてくださいます。
「コートが我が儘さんを言うのも可愛らしいですけれど、でもコートはお利口さんな方がもっと可愛らしいですわ」
「……姉様?」
 姉様はいつも通りの柔和な笑みを浮かべたまま、何度もゆっくり僕の髪を撫でてくださっています。
「明日はタスクさんの作ってくださった人参さんを食べましょうね」
 チクリと僕の胸に痛みが走りました。
「コートはタスクさんととても仲良しさんですもの。わたくし、とても羨ましいんですの。コートのためにわざわざ特別なお食事を作ってくださるなんて。わたくしにはそういった事はしてくださいませんもの。わたくしに好き嫌いがないからかしら?」
 夕暮れの弱く冷たい風が、姉様の髪と僕の髪を揺らしました。

「……今日の、は……僕の好き嫌いを治そうとして……」
 なんだか変……です。僕、すごく苦しいです。大好きな姉様とお話ししているのに、すごく……息苦しいんです。
「それでもコートはタスクさんと仲良しさんですわ。タスクさんもコートとよくお話ししてくださるし。ねぇ、コート。今度はわたくしも一緒に誘ってくださいましね」
 姉様が僕の帽子を被せ直してくださいました。でも僕の胸の痛みは治まらず、そして息苦しさも増してきました。
「ファニィさんもタスクさんと、とっても仲良しですし、コートもタスクさんと仲良しさん。わたくしだけが仲間外れで寂しいですわ。わたくし、もっともっとタスクさんと仲良しさんになりたいんですの」

 僕は息が詰まりそうになって、ゆっくりと姉様から離れました。
 僕、分かったんです。姉様がご自分でも気付いてないこと。
 姉様は……タスクさんがお好きなんです。だってさっきから、タスクさんのことばかり仰います。お昼だって、僕よりタスクさんの味方をなさいました。
 今まで姉様から誘ってほしい、お話ししたい、なんて言いだす特定のかたはいませんでした。だって僕が姉様の一番だったから。僕だって姉様が一番大好きでした。
 だけど……姉様は変わってしまったんです。姉様にとって、僕が一番じゃなくなってしまったんです。
 ……姉様がタスクさんをお好きだとタスクさんが知ったら……タスクさんは僕なんて見向きもしてくれなくなってしまう。僕は子供で……男で……タスクさんにとっては……どうでもいい存在だから。

 姉様が相手では……僕なんて……絶対にかなわない……。

 悲しくて、つらくて、僕はぎゅっと両手を握り締めました。風が、冷たいです。
「あら、コート。どうしたんですの? お部屋に戻らないんですの? クッキーがありますのよ。そうですわ。もうそろそろお夕食ですから、一緒にタスクさんに美味しいものを作っていただきましょう。タスクさんのお料理、とても楽しみですわね。コートも楽しみでしょう?」
 また……です。また姉様がタスクさんのこと……。
「……と、図書室に忘れ物、を……してきたんです。姉様は……先に行っていて……ください……」
「そうなんですの? 分かりましたわ。すぐ追い掛けていらっしゃいね」
 僕は生まれて初めて、姉様に嘘を吐きました。何も知らない姉様を欺いて騙す、ひどい嘘を吐きました。
 泣き出したい衝動を堪えて、僕は姉様に背中を向けて走り出しました。

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