Light Fantasia

オウカという国には各国から腕自慢が揃う冒険者組合がある。
 名(迷)物補佐官でありながら冒険者でもあるファニィ、美貌の怪力美女ジュラフィス、
健気で超天才児のコートニス、生真面目で世話やき基質のタスク。
 凸凹四人組が織りなすハチャメチャファンタジー!


なろう版

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 美味しくないと悪い評判の食堂は、いつも閑古鳥で人影まばらなはずだった……んだけど、今日はなぜか満員御礼状態。どんなに不味くても、人間おなかが空いてたら食べるしかない訳で、今日はたまたま混み合う時間に食堂へ来ちゃったって事なのかしら?
おかしいなぁ。組合の食堂より、外のお弁当屋さんのお弁当を買ってくる人の方が多いと思ったんだけど。あ、もしかして給料日前だから? ……って、そんな訳ないか。依頼をこなしたチームのお給料は基本、申請後即時支払いだし、ウチ。

 あたしは補佐官特権を利用して、どうにか三人分の席を確保したの。そして相席になった、組合の薬師をしているイノス君に声を掛けた。
「すごいね、今日の食堂。なんかあったの?」
「いやー、組合の有名人三名と相席なんて、今日はツイてるなー」
「イノス君。ちゃんと答えないと組合から放り出すわよ」
「あっ、すんません。新人コックが来たんすよ。昨日入ったって新人に、組合の給料だけじゃ食ってけないぞって教えてやったら、なんか料理が得意だって言うんで、ここのチーフに紹介してやったら本当に料理が得意だったらしくて、口コミで一気にこの有り様で」
 追放が怖かったのか、イノス君はペラペラと喋り出す。
 昨日入った新人? ……って言うと、ジーンから来た魔法使いの彼だっけ?
「その新人って、ジーンの魔法使い君?」
「そうそう。ジーンの魔法使いの奴です」

 彼、男なのに料理とかできちゃうんだ。人は見掛けによらないものねぇ。
 ところで彼の名前、なんだっけ? さすがに数十人、といる組合員全員の顔と名前なんて、補佐官やってるあたしですら、ちゃんとは覚えていられない。脳みその作りが常人を逸脱して異常発達してるコートなら覚えてるかもしれないけど。
 うん、コートは組合きっての天才児だから。
「あいつ、銀鮭のシチューが得意とか言ってましたけど、今日はもう売り切れなんすよ。でも子羊のスパイシーソースとかも美味いっすよ」
「へぇ、そうなんだ。じゃ、ジュラもコートもそれでいい?」
「もちろんですわ。わたくしお肉はとても好きなんですのよ。ねぇコート」
「は、はい。あ、でも僕は辛いものは……いえ、な、なんでもないです」
「じゃあ俺、三人分注文してきますね。ファニィちゃんたちはここにいてください」
 イノス君はまるであたしのご機嫌取りでもするかのように、厨房のカウンターまで走って行く。それを見届けてから、あたしはセルフサービスのお水を三人分用意した。

「新しいかたが……いらしたのですね」
「うん。ジーンの魔法使いだって。コートに言ってなかったっけ?」
 コートが少し考えるように小首を傾げている。コートは北のラシナの出身だから、ジーンが魔法使いの国だという事は知っていても、実際に魔法使いを見た事がないから戸惑ってるのかもね。組合にいるジーン出身の魔法使いは、とても魔法使いというレベルじゃない程度の魔法しか使えない、もっぱら事務員みたいなものだし。

「ファニィちゃん、ジュラフィスさん、コートニスちゃん、お待たせっす」
「お待たせしました」
 イノス君と、昨日の魔法使い君が両手に子羊のなんちゃらのお皿を持ってやってくる。
あーあー。あたしが注文したからって、料理人本人を連れてきちゃったら、厨房がてんてこ舞いじゃないの。イノス君のお節介は相変わらずだわ。
「どぞどぞ。マジ美味いんで食ってやってください」
 あんたの手柄じゃないでしょうが、イノス君。
「お口に合えばいいんですが」
 魔法使い君はぺこりと頭を下げて、お皿をジュラとコートの前に置いた。
「まぁ美味しそうですわ。いただきますわね」
 ジュラがさっそくナイフとフォークを手にする。コートはぼうっと魔法使い君を見たまま固まっている。

 あー、コートに彼の容姿はちょっと怖かったか。顔に変な刺青とかあるし、やたらとでっかいジュラと同じくらい背は高いし、肌も黒いし目付きもアレだし。
 魔法使い君は厨房に戻るでもなく、ぼんやりとジュラに見惚れている。
 ま、そりゃ当然よね。あたしはもう見慣れちゃってるけど、ジュラは縦横ナナメどこから見ても完璧なプロポーションと、目も眩むほどの美貌を兼ね備えている絶世の美女。冒険者って言葉に似つかわしくない、組合の中で明らかに場違いな容姿と、無駄に大きい胸を誇示するような服装だもんね。世のお馬鹿な男どもが見惚れるのは当然だわ。
 彼もまた例に洩れず、ジュラに見惚れているらしい。そして真実を知った時に呆然とするに違いないわ。ジュラの頭の中にはお花畑が咲いてるんだよーって。あはっ!

「まぁ、美味しいですわ。コートもそう思いますわよね?」
 ジュラがパクパクモリモリ切り分けたお肉を口へ運んでいる。ジュラは好き嫌いなく何でも食べるのは知ってるけど、ここまでがっついて食べてるのは初めて見たかも。そんなに美味しいのかな?
 あたしは小さめに切り分けたお肉とソースと一緒に口に放り込んだ。
「……え、嘘っ? ホントに美味しい!」
 昨日までどうしようもなく不味かった料理が、たった一人、新しいバイトが入るだけでこんなに美味しく変身しちゃうものなの?
 あたしはびっくりして、もう一切れ口に突っ込んだ。やだ、本当に美味しい!
「美味しいよ、これ! 魔法使い君! キミすごいよ!」
「はっ? あ、ああ。すいません、ぼうっとしてて。お口に合って良かったです」
 我に返った魔法使い君が、ちょっとだけ頬を緩める。へぇ、笑うとちょっと優しい顔になるじゃない。
「まぁ。コートはもうご馳走さまですの? まだたくさん余っていますわよ。食べて差し上げないと、お料理になってくださった子羊さんが可哀想ですわ」
 いつの間にかペロッと自分のお皿を空にしてしまっているジュラが、魔法使い君を見たショックで固まったままのコートに話しかけている。コートはまだ一口も食べていないみたい。
 あれ? 怖がってるにしても緊張してるにしても、何だかいつもより挙動不審ね。ううん。挙動不審っていうか、全く動いてない。
「どうしたの、コート? 緊張し過ぎておなかでも痛い?」
「……あ……いえ……あの……」
 蚊の鳴くような声で、耳の先まで真っ赤になって俯くコート。その様子を見てあたしはピンときた。
「さてはコート? あんた、彼の事が気に入っちゃったな?」
「やっ……ファ、ファニィさん……っ!」
 あたしが意地悪く言うと、コートは更に真っ赤になって俯き、両手で頬を押さえる。おおー、まさに恋する少女の仕種だわ。可愛いなぁ、もうっ!
「え、あ、俺、ですか? こんな小さい子に好意的に見られるなんて……」
 魔法使い君が戸惑うようにあたしとコートを見比べている。
 あははっ! そりゃ戸惑うよねぇ。初対面でいきなり気に入ったとか言われても。コートって、すっごい内気なくせに、とんでもなく惚れっぽい性格なんだよね。気が多いというか、おマセというか。
「ごめんごめん。魔法使い君、コートはすっごく惚れっぽいのにとんでもなく照れ屋なんだよ。これでも普通だから、あんまり気にしないで」
「そ、そうですか。ああ、でも悪い気はしないですよ。俺この顔ですから、初対面の相手には無意識に避けられる事が多いので」
「うん。確かに人相悪いね」
 ピクッと魔法使い君の頬が引き攣ったように見えた……けど、気のせいかな?

「コートが食べないのでしたら、わたくしがいただきますわね」
 ジュラがコートの返事も聞かないまま、さっさと自分の空のお皿と、コートの手付けずのお皿を交換してしまう。ありゃ。コートがノロノロしてるから食いっぱぐれちゃった。
「あ、あの。この子、まだ一口も食べてないのでは?」
「うふふ。美味しいですわよ。ねぇコート」
 コートに同意を求めるジュラ。だからコートは食べてないって。
 コートの食事が目の前で強奪されたのを目撃し、魔法使い君が思わずジュラに声を掛けるも、ジュラは食べるのに夢中で聞いちゃいない。
 うん。ジュラはいつでも至って平常運行ね。

「あージュラもこれで普通だから。気にしないで」
「はぁ……」
 魔法使い君が少し呆れたように肩を竦める。あ、ちょっとだけジュラの本性見えたな?
 あたしが笑いながら食事を続けようとすると、ツンツンと控えめに腕を突かれた。見ればコートが何か言いたげにモジモジとしている。
「どうしたの? 魔法使い君に抱っこのリクエスト?」
「ちっ……違いま……す……っ!」
 コートが真っ赤な顔して必死に首をブンブン。ホントいちいち反応が可愛いなぁ、もう。
「何かもう一品作ってきてやろうか? こちらの……ええと、お姉さん? かな? ……に、全部食われちゃったみたいだし」
 ジュラとコートに共通する、ラシナの民特融の長い耳と白い肌を見て、魔法使い君はジュラとコートの関係を見事言い当てる。
「ジュラとコートがきょうだいだって、よく気付いたね。あ、見たら分かるか。よく似てるし。こっちの食べるのに夢中なのがジュラフィス。小さい方がコートニス。どっちもあたしのチームメイトよ。ところで魔法使い君。キミ、なんて名前だっけ?」
「俺はタスク・カキネです」
「タスク君ね。覚えとくから、また美味しいご飯、よろしくね」
「ええ、喜んで。ありがとうございます」
 料理を褒められた事が嬉しいらしい。タスク君が目を細めて笑う。あ、やっぱり彼、笑うと優しい顔になるんだ。発見!

「そう言えばコート。あたしになんか用?」
 コートはタスク君の前ですっかり緊張しちゃって、多分まともに喋れない。コートの照れ屋というか、あがり症はもはや病的とも言える。おそらく一生治ってくれないから、あたしもすっかり対応に慣れちゃった。
 あたしは彼の口元へ耳を持っていった。
「……あ……すみま、せん……あの……僕、思ったんですけど……ジーンの魔法使いのかたなら、あの古代文字、を解読、できるかもしれません。あの洞窟はジーンの国境近く、でしたし……魔法使いのかたのほとんどは……古代語、を勉強、なさっていると聞いた事がありますし」
「それホント?」
 あたしが聞き返すと、コートはまだ赤い顔のまま、コクコクと頷いた。あたしはパチンと指を鳴らし、その勢いのままタスク君に詰め寄った。
「ねぇキミ! 古代文字って読める?」
 いきなり直球で質問をぶつけてみる。あたし、ジュラとコートに関わる事以外のまどろっこしいのは嫌いなのよね。だって面倒臭いじゃない。
「古代文字、ですか? 古代と一口に言っても、時代によりますけど一通りは勉強しましたが……」
「コート、メモ!」
 あたしが手を出すと、コートが慌ててさっきの手帳を取り出して開く。あたしはそれをひったくって、タスク君の前にバンと突き出した。
「こんなの!」
「ちょ、近っ! 近過ぎて見えないです! ええと……ははぁ……ヘルバディオ時代、ですね」
 あたしの手からコートの手帳を受け取り、タスク君は顎に手を置いてじっとその文字を目で追う。
「……はい、この時代のものなら分かりますよ。ただちょっとこのメモは写し間違えてるのか、文法が繋がらなくて意味が分からないですけど」
 うっそ、マジ? 読めちゃうの、こんなミミズとムカデが乱捕り稽古してるみたいな文字!
「タスク君ラッキーだよ! さっそく依頼、一つあげる!」
 あたしは彼の手から手帳を取り上げ、ビシッとコートのメモを指差した。
「この文字が書かれた洞窟調査の同行を申し渡します! 明日、あたしたちに着いてきて」
「いきなり仕事をいただけるんですか? ありがとうございます!」
 タスク君が嬉しそうにあたしを見る。確かに大抜擢だよ。組合に入った翌日に仕事もらえるなんてラッキー、そうそうあるものじゃないわ。

「では明日、何時くらいに準備しておけばいいんでしょうか?」
「そうね。ジュラがきっと寝坊するだろうから、お昼前でいいわよ」
 あたしが答えると、タスク君はジュラとコートを見て、訝しげに首を捻る。
「あの……少々つかぬ事を伺いますが……補佐官様に同行という事は……」
「ん? チームの事? あたしとジュラとコートだけど?」
 タスク君が明らかに狼狽した様子で、両手を胸の前でひらひらさせる。
「えっ、でもあの! 軽視する訳ではないですが、伺う限り女性と子供……だけですよね?」

 タスク君がその言葉を口にした瞬間、同じテーブルでおとなしく成り行きを見守っていたイノス君が一瞬で真っ青な顔になった。そして自分のお皿を持ってそそくさと逃げ出す。賢明な判断ね。
 ……これってあたしたちの事、完璧にナメられてるよね?
 あたしの眉尻がキリキリと攣り上がる。そしてダンッと椅子に片足を付いて、彼をビシッと指差した。
「あんた! あたしたちをナメてるでしょ! あたしもジュラもコートも、この組合筆頭の実力者よ! 見た目で判断してると痛い目見るわよ!」
「いえ、だから軽視してる訳ではなく、ええと……この子ですよ! この子、こんな小さいんですよ? 冒険とかで町の外に連れ出して危なくないですか?」
「コートは大丈夫よ!」
「さっきから不思議に思ってたんですけど、面接の時の誓約書には、十五歳以下の加入は認められないとあったじゃありませんか。この子はどう大目に見ても七、八歳くらいでしょう? 組合は未成熟の幼児を危ない任務に使ってるんですか?」
 やたら噛み付いてくるタスク君。
 コートは自分が話題になったと知り、今にも泣き出しそうな顔になる。あ、泣き出しそうじゃなくて、もう泣いてるよね。
「コートは特例なの! それに七歳じゃなくて十歳! 背は標準より小っさいけど! ホントならあんたの言うとおり年齢で弾かれるんだけど、コートの優れた能力は、どう少なく見積もってもあんたより遥かに上よ!」
「おっ、俺は子供以下って言うんですか!」
 タスク君が、いえ、タスクが苛立ちを露わにして地団駄を踏みそうな勢いで噛み付いてくる。そして舌打ちして腰に手を当てて大きく息を吸い込んだ。
「さっきも人の事を人相が悪いだとか、そっちこそ俺をナメてるんじゃないのかよ!」
 タスクの言葉使いが崩れた。
「あんた、あたしに対してその口の利き方は何よ!」
「地位を盾にすりゃ、人を馬鹿にしていいとでも思ってんのか! 人がおとなしくしてりゃ偉そうに踏ん反り返りやがって、お前みたいな口の悪い性格も悪い女から補佐官って皮をひん剥いたら、何が残るってんだよ!」
「なによ猫っかぶり!」
「やかましいわ、クソアマが!」

 キレた。あたし、本気でムカついた!

 なんなの、こいつ! ちょっととぼけた料理好きの変わり者魔法使いだと思ったけど、礼儀知らずもいいトコじゃない! あたしに対してクソアマなんて言い方した奴、今まで見た事ないわ!
 あたしがギリギリと歯ぎしりするのを見て、あたしとタスクの周囲から、さっと人が消える。そして遠巻きにあたしとタスクの喧嘩の行く末を見守っている。
 そうよね、あたしに盾突く人間なんて、この組合には今まで誰一人いなかったもの。あたし相手に暴言吐く新人なんて、そりゃあ誰だって驚くわ。
「謝りなさい! 謝らないと、今すぐ速攻でクビにしてやるわよ!」
「誰が謝るか! 地位を盾にしないと何もできないようなお嬢ちゃんこそ、とっととさっきの非礼を詫びるべきなんじゃないのか?」
「完っ璧に頭きた! ひっぱたいてやるからおとなしくしなさい!」
 あたしが平手打ちのために手を振り上げると、タスクは指先をあたしに突き付けた。刹那、あたしの前髪を、突然現れた火の玉が焦がす。
「キャッ!」
「クビでもなんにでもしろよ! ただし、ちょっと痛い目を見てもらうからな!」
 そうだ、魔法使いだったんだ、こいつ。
 あたしはトンと背後に飛んで距離を取り、ギリギリと奥歯を噛んでタスクを睨み付けた。

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