Light Fantasia

オウカという国には各国から腕自慢が揃う冒険者組合がある。
 名(迷)物補佐官でありながら冒険者でもあるファニィ、美貌の怪力美女ジュラフィス、
健気で超天才児のコートニス、生真面目で世話やき基質のタスク。
 凸凹四人組が織りなすハチャメチャファンタジー!


なろう版

     グランフォート家の秘密

       1

「やっほー。今日あんた非番なんだって? じゃ、暇してるよね?」
 冒険者組合の補佐官であるファニィが、組合の男子寮にある俺の部屋へ飛び込んできた。
 ちなみに男子寮は女人禁制。つまり女子立ち入り禁止。知り合いだろうと合意の上だろうと呼んで連れ込むのも禁止。簡単な話、女は入っちゃ駄目出て行けっつー事。
そもそも男しかいないむさ苦しい男子寮になんて、普通の神経をしていて良識を持った女性なら、一抹の不安も考慮に入れた上で遠慮して入ってこないものだろう。
 だがこいつに普通の神経やら常識やらを期待しても無駄だな。組合随一かと思える程の傍若無人さと身勝手さを兼ね備えている事を、俺はこの数週間の付き合いで嫌と言う程よぉーく理解していた。
 だがとりあえず忠告はしておく事にした。俺は常識人だから。

「あのさ。ここ男子寮だぞ?」
「いいの気にしないで。あたし補佐官だから」

 関係ねぇよ!
 思わず心の中でツッこんだ。
 やっぱりこいつに、常識やら普通の神経を求める方が無駄だったらしい。あっけらかんとしたもんだ。

 俺はタスク・カキネ。魔法による統治国家である東方のジーンという国から修行という名目で家出してきて、このオウカの国の冒険者組合に籍を置いてもらっている魔法使いのタマゴだ。
 本当の所は『魔法使い』を目指ししている『魔術師』で、魔法と魔術の違いというのは……あー、この辺ちょっとややこしいんで、まぁ今度、時間のある時にでも。
「非番は非番だが、厨房の足りないものを買い出しに行くからそんなに暇って訳じゃないぞ」
「買い出し? いつもは市場の御用聞きの人が注文聞いて持ってきてくれるんじゃないの?」
「チーフに俺から頼んだんだよ。俺の使いたい調味料とか香辛料がここにはあんま揃ってねぇから」
「あんたもうすっかり食堂で実権握ってるねー」
 ファニィがにっと笑う。
 つい先日までは人が変わったように落ち込んでたくせに、もうすっかり元のファニィだ。まぁこいつが落ち込む代わりに、今度は俺がちょっとばかり落ち込んでるんだが。
 落ち込むと言っても、仕事に支障を来す程じゃない。俺は普段通りの態度でファニィや組合の連中に接していた。
「ふーん。じゃあ買い物付き合ってあげようか?」
「お前は組合の仕事があるんじゃないのか?」
「あるけど……ま、息抜きって事で」
「お前がいてくれれば市場で迷わなくて済むけど……本当に補佐官の仕事ほったらかしで大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。今はあたしのサポートの……えー、書記官? うん、書記官。その書記官が元締めの補佐に来てくれてるの。もしかしたらあたしより仕事できるかもね。書き物とか書類整理なんかの事務処理はあたしより確実に早いし手際いいよ。もう仕事終わってたりしてね」
 書記官? 俺は会った事がないが、まぁ組合の上層部とそうそう顔を会わせるような立場じゃないしな、俺。名前だけの副元締めのヒースと違って、ファニィが信用しているような人らしいし、それなら放っておいて大丈夫だろう。
「じゃあ案内頼めるか?」
「任せといて」
 俺はファニィと市場へ向かう事になった。

 賑やかな市場はどこの国でも似たようなものだ。色鮮やかな織物を売る屋台。果物や野菜を売る屋台。食欲中枢を刺激する香りの食い物を売る屋台。
 売る側の人間も客側の人間も活気に満ちあふれ、誰もが楽しそうな笑顔でいる。このオウカは特に、東のジーン、西のエルト、南のコスタ、北のラシナという国々の中心に位置し、物流産業が盛んなために、様々な人種も見る事ができる。
 ただ、もともと国交の少ないジーンの人間は、やはりここでも珍しいらしい。俺のような黒い髪で褐色の肌の人間はやや目立っているようだ。顔にある目立つ刺青の事もあって、好奇の目で見られる事はないが、常に視線を感じるのは仕方ない。ジーンを出てから随分経つし、そういった視線にはもう慣れた。
「ジーンの香辛料、あんまり売ってないね」
「まあジーンはお国柄、他国とあんまり接触しないって女王の方針だからな。物も流れてこないのは仕方ないだろ」
 俺は香辛料を売る屋台の前で、変わった香りのスパイスを掌で転がしながら返事をする。味見させてもらえるだろうか?
「ま、似たようなの探すさ。新しい調味料で新しい味を発見するのも面白いしな」
「おー。なんか料理人っぽい発言。冒険者より天職なんじゃない?」
「馬鹿言え。俺はちゃんと修行して立派な魔法使いになってジーンに帰るんだ」
 そうだった。これが本来の目的だった。ファニィに突っ込まれるまで半分忘れてたぜ。
 ファニィには口が裂けても「忘れてた」なんて言えないが。言ったら間違いなく馬鹿にされる。
「ほうほう、修行ね。その修行には、精神的に参ってる女の子の心の隙をついて口説くような修行も混ざってんの?」
「ばっ……か……!」
 俺はつい先日、勢い余ってファニィに好きだと告げそうになったんだ。未遂に終わったが、こいつに気持ちが傾いてしまったという事実はすっかり当人に知られてしまった。
 当の本人があっけらかんとしているので、俺も気まずくならずに済んでいるが、思い出すと頭に血が昇り、脂汗が滲んでくる。
 なんでこんな、口と性格の悪さで見た目の可愛さを打ち消す程のトンデモ女に惚れたのか分からない。だがファニィの特殊な身の上が俺自身の身の上と共感できてしまったという点が、少なからず好意の理由の一つとして挙げられる事は間違いないだろう。似た者に対する好意というか。

「お、お前に告白しそうになったのは気の迷いだ!」
 俺は顔が火照るのを感じながら、なんとか否定の言葉を吐き出す。
 するとすぐ近くで、ドサッと紙袋か何かが落ちるような音が聞こえた。
「……あ」
 ファニィが声をあげた方を見ると、大きめの青い帽子を被った蜂蜜色の髪の美幼女が、大きな荷物を落としてこちらを見ていた。
 いや、訂正。美幼女じゃなく、思わず連れ去りたくなるような、愛くるしさ満点の女の子のような容姿をした小柄な小僧、コートニスだ。小僧と言うからにはもちろん男。まだガキんちょ。
 コートはその愛くるしい容姿と内気な性格で、絶世の美女である姉のジュラフィスさんと並んで組合でも大人気のマスコット的存在だが、男なのに男が好きという、かなり傍迷惑な性癖を持っている。そしてこいつの好みのタイプに、どうやら俺はジャストフィットしているらしい。
 でも俺はノーマルだからな! 至ってノーマル! 普通に女が好きで、男の恋人なんか何があってもいらねぇ!

「あ、あー……えーとね。タスクが言ったのは、そう深い意味はなくて……友好的? っていうか、そういうの? ……かなぁ……」
 ファニィが突然慌てふためいてコートに取り繕うような言葉を掛ける。
「……タスクさんが……ファニィさんに……」
「違うの! それは違うのよ!」
 コートは両手で口元を押さえ、目に涙をいっぱいに溜めてしゃくりあげ始めた。
 あーあ、まただ。こいつはやたら軟弱ですぐに泣く。その仕種がこれまた似合ってしまっているのが問題大アリなんだ。可愛らしいったらありゃしない。
 ジュラさんやファニィが過保護過ぎるほど可愛がるのも無理はない。
「あのなぁ、コート。お前が俺をどう思ってようが、俺は至ってノーマルなのであって、お前の趣味に俺を当てはめ……」
「タスク黙って! コート、だからこれは誤解でね」
 ファニィにぴしゃりと口止めされ、ファニィは必死にコートを宥めようとしている。弟分のコートに対して平身低頭な姿がいつものファニィらしくないな。
「……タスクさんなんて……タスクさんなんて嫌いです!」
 コートがそう叫んで逃げるように駆け出した。ファニィが頭を掻きながら、バツの悪そうな顔になる。
「……厄介な事になっちゃったよ、タスク」
「なにが?」
「ウチの組合でね。怒らすと一番怖いのはコートだよ。悪い事言わないから、追っかけて釈明ついでに謝っておいでよ」
 謝れと言われる意味が分かんねぇ。
「なんでガキに頭下げなきゃなんないんだよ。あいつの一方的な悪癖に付き合ってられるか」
「あーあ。あたし知らないよ……って、あたしも巻き込まれてるんだよねぇ……」
 コートが俺を好きだというのはコートの勝手だし、俺はノーマルなんだから他の誰に好意を寄せようが、コートには関係ないじゃないか。ファニィはコートの悪癖の味方なのか?
 ……可能性は充分あるな。俺をからかう事を無上の喜びとしているような節があるし。

「コート、どこにいますの? わたくし、かくれんぼは苦手ですのよ」
 遅れてのんびりやってきたのはジュラさんだ。いつもながらのほほんと我が道を行く人だな。たぶんコートとはぐれたんだろう。この人ごみだし。
「ジュラさん! こっちですよ!」
「まぁ、タスクさんにファニィさん。ごきげんよう」
 ジュラさんがいつも通りの、大胆に胸元の開いたドレスの裾を摘まんで優雅に一礼する。
「ジュラ、ごめん。コート泣かしちゃった。タスクが」
「まぁタスクさんたらコートをいじめたんですの? わたくし許しません事よ」
 コートと食べ物の事しか考えてないジュラさんお得意の壮大な早とちりだ。見事に内容を都合のいいように曲解して勘違いしている。
 最初は戸惑った俺だが、もうすっかり慣れてしまった。こうなってしまったジュラさんは、子供に教えるように分かりやすく訂正してやればいいんだ。
「違いますよ。コートが勝手に逃げてっただけです」
「原因はタスクだけどね」
「ファニィ、お前はどうしても俺を悪者にしたいらしいな」
 ジュラさんが不思議そうな顔をして首を傾げている。
「とにかくコート捜さないと、また人さらいに遭っちゃうよ」
「人さらいって大袈裟な……」
「コートはあんなに可愛いんだもん。過去に何度か誘拐されかかった事があるの」
 おいおい……初耳だぞソレ。
「まぁ大変ですわ! ファニィさん、タスクさん。コートを捜してくださいましね」
 ジュラさんが走り出そうとするのをファニィが掴まえる。
「一緒に行くよ。ジュラ一人だと迷子になるからね」
「お願いしますわ、ファニィさん」
「ほらタスクも!」
 俺たちは姿を眩ませたコートを捜しに駆け出した。

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