Light Fantasia

オウカという国には各国から腕自慢が揃う冒険者組合がある。
 名(迷)物補佐官でありながら冒険者でもあるファニィ、美貌の怪力美女ジュラフィス、
健気で超天才児のコートニス、生真面目で世話やき基質のタスク。
 凸凹四人組が織りなすハチャメチャファンタジー!


なろう版

       3

 夜遅くに訪れた遠方からの依頼者のために、あたしは彼女を案内してきてくれたジュラに、食堂へ行って四人分のお茶を淹れてきてくれるよう頼んだ。そしてコートを置いて行くように指示した。
 不満そうだったけれど、ジュラは何度も振り返りながら食堂へ向かった。一応ジュラも、コートがこの組合の書記官であるという事実を認識はしているので、あまり自分の都合最優先な行動は控えてくれてるのがありがたいわ。

「遠路遥々ようこそ、冒険者組合へ」
 元締めが依頼者の女の人に席を勧める。女の人は一礼して腰を下ろした。その向かいに元締め、あたし、コートが座る。
「え……あの、坊やは元締めさんのお子さんか何か……?」
「いやいや。紹介します。ワシが組合総元締めをしておりますトールギー・ドルソー。手前から補佐官で娘のファニィ・ラドラム。そしてコートニス・グランフォートは幼いながらもファニィの書記官を務めておりまして、ワシも大変に信頼を置いた者ですので、どうか同席を許可していただきたい」
「まぁ……こんな小さな子が? お利口そうとは思っていましたけれど……」
 依頼者の女の人は口元に手を当てて、心底驚いた顔をした。そりゃあ驚くのは無理ないよねぇ? あたしくらいの歳でも「まだ若いのに」って言われる事があるのに、コートはまだ十歳、見た目はもっと下に見えるもん。
 コートは分厚い本を抱えたまま、肩を小刻みに震わせてじっと俯いて自分のつま先を見ている。いつもの青い帽子もケープも付けてないし、何だか急いで部屋を出てきましたって感じ。何か言いたい事があったのかもしれないけど、でもこの様子はまだ全然立ち直ってるようにも見えない。
 あたしは黙ってコートの肩を抱き寄せた。ビクッとコートが体を固くする。その体は冷え切って冷たかった。この薄着でずっと外にいたのかしら?
 あたしはコートの耳元に口を持っていって、他の人に聞こえないような小さな声でコートに囁きかけた。
「もう誰もコートを責めたりしないから、もっと堂々としてごらん。いつまでも塞ぎ込んでたら、あたしもジュラもタスクもスゴく心配だよ。それにエイミィだってコートに笑っててほしいんじゃないかな」
 あたしの言葉に、コートがゆっくり顔を上げる。そして今にも泣き出しそうな顔で、じっとあたしを見上げた。
 あたしは無言のまま、唇の端をきゅっと上げて微笑みかける。
「……ご……めん、な……さい……」
「ん。もう謝んなくていいから、元気出してよ。これ終わったら、ジュラと美味しい物でも食べておいで。ジュラが一番心配してたの、コートだって分かってるよね?」
 コートは唇をぐっと噛み締め、無言のままあたしの服の袖を掴んだ。そして小さく頷いた。
 うん。もうコートは大丈夫。すぐには笑えないかもしれないけど、でももう誰にも会わないように部屋に塞ぎ込んだりしないわ。コートは強い子だもん。

「あっ、すみません、私ったら……私、ジーンで賢者をしております、ミサオ・カキネと申します」
「ご高名は聞き及んでおります」
 ジーンの賢者様ね……あれ? でも今『カキネ』って言った?
「さっそく依頼の話ですが、先にお手紙をしたためさせていただいた通りです」
「盗品の捜索、ですな」
「ええ」
 ミサオさんは綺麗な顔に陰りを落として、不思議な赤味を帯びた銀細工の腕輪をした手を頬に当てた。
「お恥ずかしい事なのですが、当家がジーンの女王より賜った貴重な宝石が盗難に遭いまして。私の占術で、どうやらオウカ方面にあるという事までは突き止めたのですが……そこで情報がぱったり途絶えてしまって」
「宝石の盗難品を探し出すのは非常に厄介ですな。盗難に遭った宝石というものは、闇市場に流される事が多々あります」
「それは困りましたね。魔力媒体としてとても価値のあるものなのです。ちなみに台座と宝石はこのような形をしています」
 ミサオさんが羊皮紙を取り出してテーブルの上に広げる。そこには縞模様の動物が黒い球体を咥えている絵が描かれていた。
「派手なシマ猫。獰猛なので注意かしら」
 あたしは思わずポツリと素直な感想を述べる。元締めやミサオさんには聞こえなかったみたいだけど、隣のコートにはあたしの感想が聞こえたみたい。
「……トラ……です。ジーン方面にしか生息していない、猫科の猛獣……です」
 コートが蚊の鳴くような声であたしに説明してくれる。獰猛そうな面構えだけど、猫って感想はあながち間違いじゃなかったのね。
「国宝・タイガーパールと言いまして、大きさは台座のトラを含めても掌に収まる程の大きさです」
「随分小さいんですね。でも魔法使いから見ればスゴいものなんですか?」
「ええ。魔力供給媒体として使えば、初級の魔法使いでも、相当な威力の魔法を放てます」
 ふーん。じゃあタスクが魔法使う時の力の底上げに使えば、もう故郷に帰っても未熟者扱いされないんじゃないかな? あ、でもあいつは炎の魔法しか使えないからダメなんだっけ?
「ファニィ、何か情報はないかね?」
「ええと……そういえば、近い内にオウカの外れの方で闇市場が開催されるみたいだけど、でもこれが出品されるかどうかは、今すぐにはちょっと分からないかな。調べてみます」
 あたしは冒険者組合の補佐官をしてるくらいだから、元締めには絶大な信頼を置かれている。そしてあたし独自のネットワークとか持ってたりするんだよね。だから盗品の売買関係の依頼なんか来たら、ほぼ、あたしが動く事が暗黙の了解となっている。
「ではその闇市場の詳細を教えてください。私、個人で探してみます」
「お待ちください、カキネ殿」
 元締めが操さんを引き止める。
 ジーンの賢者って言ってた割には結構世間知らずみたいね、ミサオさん。脅かすつもりはないけど、でも闇市場の怖さを知らないのはちょっといただけないな。
「闇市場というのは、オウカだけでなくラシナやコスタ、東西南北あちこちの国のならず物や賞金首が寄り集まってくる所なんですよ。ジーンの賢者様といえど、一人で乗り込むにはちょっと無謀過ぎます」
 あたしは、今にも動き出そうとしているミサオさんをなだめるように説明する。
「少し時間をいただきますけど、組合に依頼いただいた件は組合で処理させてください。組合のやり方に従っていただくのが依頼者の道理だと思いますけど」
「ファニィの言う通りです。組合を信頼して依頼いただいたのであれば、組合は全力でご期待に沿えるよう努力しますぞ」
 あたしと元締め二人掛かりで説得され、ミサオさんは浮かした腰を落とした。
「……私は非礼を働いてしまう所でしたね」
 ミサオさんが苦笑する。そして両手を膝に揃えてゆっくりと頭を下げてきた。
「タイガーパール奪還の件、正式に依頼させていただきます。なにとぞよろしくお願いいたします」
「頭を上げてください。ご依頼は正式に受理させていただきましょう」
 元締めがタイガーパールの絵を手に取り、あたしに差し出してきた。
「危険だが君に任せて大丈夫だな?」
「承りました」
 あたしは元締めから羊皮紙を受け取り、もう一度その絵を見た。
 その時、執務室のドアがノックされた。
「遅くなりまして申し訳ありません。お茶をお持ちしました」
 ドアの向こうからタスクの声が聞こえた。あれ、事務の女の子、帰っちゃったのかな? 普段なら女の子がお茶を持ってくるんだけど。
 あたしの隣でコートがそわそわし始める。当然か。コートはエイミィの事で、タスクに思いっきり怒鳴られてるもんね。
 コートはまるであたしの後ろに隠れるように、ぎゅっと額を押し付けてくる。あたしはよしよしと頭を撫でてあげながら苦笑した。

 ドアが開き、タスクが一礼してから室内に入ってきて……ミサオさんの姿を見つけるなり、持っていたお盆を盛大にひっくり返して、目を見開きつつ、あんぐり口を大きく開けた。心なしか顔色も赤黒く、ううん紫色に変わっている。そしてミサオさんもタスクを見て、息を飲んで勢いよく立ち上がる。
 あ、やっぱりもしかして?
「あ、姉貴ッ?」
「タスク! あんたなんでっ!」
 やっぱり姉と弟だったのね!

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