Light Fantasia

オウカという国には各国から腕自慢が揃う冒険者組合がある。
 名(迷)物補佐官でありながら冒険者でもあるファニィ、美貌の怪力美女ジュラフィス、
健気で超天才児のコートニス、生真面目で世話やき基質のタスク。
 凸凹四人組が織りなすハチャメチャファンタジー!


なろう版

       2

 どちらの民族衣装なのかは分かりませんけれど、薄い布を頭から被ってタスクさんはお顔を隠していますわ。わたくしも同じような薄い布を被っていますの。でもわたくしの物は綺麗な刺繍が入っていますのよ。
 わたくしとファニィさんとタスクさんの三人で、オウカの都から少しエルト方面に歩き、突き当たった砂漠地帯にある、とても寂れた集落のような所の前で、わたくしとタスクさんは見た事のない民族衣装のような物に着替えさせられましたの。そしてわたくしとタスクさんを送り出して、ファニィさんは来た道を戻って行かれましたわ。わたくしにタスクさんの言う事をよく聞くように仰ってましたから、今度のお仕事ではわたくしはコートでもファニィさんでもなく、タスクさんに従っていればよろしいのですわね。
 うふふ。少し服装を変えるだけで別人になったような気がしますわね。仮装大会のようで、とても楽しいですわ。コートもいればもっと楽しかったでしょうに。
「念のために偽名を使いたいんですけど、ジュラさん、別の名前って覚えられますか?」
「まぁ大変! タスクさんたらわたくしの名前をお忘れになって? わたくしはジュラフィスですわ」
「……分かってます。もういいです。俺はジュラさんを今まで通りジュラさんと呼びますから、ジュラさんも俺の事はタスクでいいです……」
 あらあら。なんだかタスクさん、とても疲れたお顔をなさっていますわ。疲れている時は甘いお菓子をいただくと、とても元気になるんですのよ。
 そういえばそろそろおやつの時間ですわ。コートはわたくしの荷物にお菓子を入れておいてくれたかしら? パイ生地にチョコレートを練り込んで焼いたものを久しぶりにいただきたいですわ。とても甘くて美味しいんですのよ。
「取引会場に入ったら……いや、ここではジュラさんは余計な事はしないで俺の傍を離れないようにしてください」
「ええ、分かっていますわ。わたくしこんな場所は初めてですの。迷ってしまったら、コートはちゃんとわたくしを迎えにこれるかしら?」
「まっ、迷ったらその場でじっとしててください! 俺が迎えに行きますから!」
「タスクさんが? まぁ、嬉しいですわ」
 これで迷子になってしまっても安心ですわね。わたくし、道や場所を覚えるのはとても苦手ですの。いつもコートに連れていってもらうんですのよ。コートはとてもお利口さんで、わたくしの自慢の弟ですわ。

 寂れた集落のような場所は、砂漠地帯の岩場の近くにありましたの。砂漠の中ですから、集落全体の建物は低くて簡素ですわ。上より横に広い造りの建物が多いようですのね。
 わたくしとタスクさんは集落の入り口を見張るように立っていらっしゃる方に近づいていきましたの。あら、よく見れば、お二人いらっしゃる内の片方の殿方は、ファニィさんのものとよく似た赤いバンダナをしていらっしゃいますわ。タスクさんはそれを目印になさるように、そちらの方へ近付いて行きましたの。
「異国の品を買い取ってくれると聞いてやってきたんだが?」
 タスクさんがそう仰って、またファニィさんのバンダナと同じような赤い布で包んだ宝石箱を見せましたの。
「ファミール様の口添えの者か?」
「そうだ。ファミール女史の所縁の者だ」
 あらあら、タスクさんたらファニィさんのお名前を間違っていらっしゃいますわ。さっきもわたくしのお名前を忘れていましたし、タスクさんたらまだ少しおねむさんでいらっしゃるのね。
 あら? でも確か組合でコートから、ファニィさんのお友達の方がこちらにいらっしゃると聞いたような……もしかしてこの方がファニィさんのお友達の方かしら? それでしたらこの方もファニィさんのお名前をうっかり間違っていらしてるのね。そそっかしい殿方がいっぱいですわ。
「名は?」
「俺はタスク。こっちはジュラフィ……ジュラだ」
「タスクとジュラ。分かった、売買は中央広場の取引会場で行われる。お前たちを登録しておくから、会場へ入る時に受付の者に名を名乗ってくれ」
 タスクさんが頷くのを見て、ファニィさんとお揃いのバンダナの殿方が木彫りのブレスレットをタスクさんに渡しましたの。
「会場に武器類の持ち込みはできない。それと、ここにいる間はこのブレスが身分証替わりになる。うっかり外して何か起こってもオレは知らねぇ」
「分かった」
 タスクさんはご自分の腕に先ほどのブレスレットを填めて、もう一つをわたくしに差し出してきましたの。
「ジュラさんも付けてください。俺がいいと言うまで外さないようにお願いします」
「あら……そうですわねぇ……デザインがわたくしの好みではありませんの。せっかくのプレゼントですけれど、いりませんわ」
「俺の言う事聞いてくださいってお願いしたでしょう。付けてください」
 タスクさんは焦った様子でチラチラと背後を伺いながら、わたくしにプレゼントを付けるように強要してきますわ。いつもと違って随分大胆ですわね。
「仕方ありませんわね。うふふ。強気な殿方もわたくし、嫌いではありませんことよ」
 わたくしはブレスレットを填めてタスクさんの腕に自分の腕を絡めましたの。こうすればタスクさんとはぐれませんわ。名案ですの。
 でもタスクさんはわたくしが体をくっつけたら、驚いたようにギクシャクしだしましたわ。あら、照れてらっしゃるのかしら? 淑女のエスコートくらい、紳士のたしなみですのよ。タスクさんはまだお若いから、照れてしまうのは仕方ないのかしら?

「じ、じゃあ行きますから、本当に離れないでくださいよ」
「うふふ。腕を預けていますから大丈夫ですわ」
 タスクさんは入り口のバンダナさんに指示された、今夜のお宿に向かいましたの。
 そういえば、タスクさんと二人だけで泊まりがけのお仕事って初めてですわね。今までならコートとファニィさんが必ずいましたもの。わたくしもちょっぴりドキドキして楽しみになってきましたわ。
 『潜入捜査』というお仕事を開始されるのは、夜からだそうですの。わたくしは何もせずにタスクさんに付いていけばいいだけと聞いていますから、迷子にならないようにだけ気を付けていればよろしいのかしら?
 少し入り組んだ場所にあったお宿でわたくしたちが戴いたお部屋は一つでしたの。タスクさんはとても困ったようなお顔をしてらしたけれど、どうしてなのかしら? わたくしが一緒だとお嫌なのかしら? わたくしはタスクさんと一緒でとても楽しいですのに。一人でいるより二人でいる方が、賑やかで楽しいではありませんか。
「あー、仕方ない! これも任務だ!」
 タスクさんは何かを振り払うように、ご自分の頬をパチパチと叩いて首をぶんぶん振りましたの。まぁ、お元気ですわね。
「ジュラさん。簡単に言うんでよく聞いてください」
 わたくしは部屋に一つしかない椅子に座って、ドアの付近に立っているタスクさんを見ましたわ。
「何度も言いますけど、ジュラさんは一切余計な事はしないでください。それから余計な事も喋らないでください。俺が全部やりますんで。ただし絶対に俺から離れないようにお願いします。目的の実物確認と所在確認ができたら、朝早くにここから逃げ出します。それからファニィと合流します」
「そんなに一度にたくさん仰らないで。わたくし混乱してしまいますわ」
「うあーっ! だからっ! 何も喋らない余計な事はしないで俺にくっついてきてください!」
「まぁ、大きな声を出してはしたない」
 タスクさんが壁に手を付いて、大きなため息を吐きましたの。まぁいけませんわ。ため息を吐くと幸せが一つ逃げていってしまいますのよ。教えて差し上げた方がよろしいかしら?
「ジュラさんは勝手に喋らない一人で行動しない。分かりましたか?」
「分かりましたわ。それくらいならわたくし、覚えられましてよ」
 わたくしは胸を張って答えましたわ。最初からこう簡単に仰ってくださればよろしかったですのに。
 コートやファニィさんは、いつもわたくしに分かるようにお喋りしてくださいますのに、タスクさんはいつも難しい言葉を使うんですもの。コートと同じでお勉強家さんなのは分かりますけれど、難解な言葉を使いたい盛りなのかしら? うふふ、タスクさんたらまだまだやんちゃさんな子供ちゃんですわね。
でもそういうやんちゃな殿方も嫌いではありませんわよ、わたくし。

「ねぇ、タスクさん。わたくし、たくさん色々覚えたのでおなかが空きましたの。今日はまだおやつもいただいていないんですもの。少し早いですけれど、お夕食にしましょう」
 人間、おなかが空いていると怒りっぽくなりますわ。だからお夕食をいただけば、きっとタスクさんも落ち着かれますの。
 わたくし、自分の名案に嬉しくなってウキウキしながらお部屋を出ていこうとしましたわ。するとタスクさんがわぁわぁと叫びながら、わたくしの腕を掴んでわたくしを引き止めましたの。
「たった今、一人で勝手な行動はしないでくださいって言ったばかりでしょう! ジュラさんも分かったって言ったじゃないですか!」
「でもわたくし、おなかが空いていますの」
 わたくしが恨みがましく唇に指先を当て、上目遣いにタスクさんを見ると、タスクさんはがっくりと項垂れて、わたくしの腕を掴んでいない方の手を小さく振りました。
「……分かりました。分かりましたよ。もうおやつでも晩飯でも何でも食いますから、お願いですから勝手に一人で行動しないでください」
「まぁ嬉しいですわ。ではさっそくお夕食にしましょう。こちらの名物のお料理は一体なんなのかしら? 楽しみですわね」
 わたくしとタスクさんはお食事をするために、二人で一緒にお宿を出ましたの。でもタスクさんは随分お疲れのご様子ですわ。やっぱりたくさん食べて元気を出していただかないといけませんわね。

 ←1 3→