Light Fantasia

オウカという国には各国から腕自慢が揃う冒険者組合がある。
 名(迷)物補佐官でありながら冒険者でもあるファニィ、美貌の怪力美女ジュラフィス、
健気で超天才児のコートニス、生真面目で世話やき基質のタスク。
 凸凹四人組が織りなすハチャメチャファンタジー!


なろう版

     タスクの告白

      1

「名前はペイド・ミラー。おそらくジーン近郊のオウカ寄り在住。歳は四十を越えてるだろう。頬は痩けていて小太りなのは不摂生。弱い者には強く当たり、強い者には媚びる『典型的テンプレート』な成金様だな。似顔絵が必要なら誰か得意な奴を呼んでくれ」
 俺は大欠伸をしながら、集めてきた情報をつらつらと読み上げる。
 普通なら冒険者組合の補佐官などという地位の人間に、こんな横柄な態度を取っていたら、ほぼ間違いなく俺は組合をクビになる。が、ファニィはそんな事には頓着しないし、むしろかしこまって話した方が気味悪がられてしまう。
「あんた何やの、その態度! ファニィちゃんはあんたより上やろが!」
 この顔触れで唯一、ファニィの性格を把握していない姉貴が肩をいからせて声を張り上げる。
「あはっ。いいの気にしないで、ミサオさん。タスクにかしこまられる方が気持ち悪いわ」
 な? やっぱりそうだろ。
「ファニィちゃんが構わへんのやったら……」
 姉貴は釈然としない面持ちで椅子に座り直す。
 姉貴はジーンで、女王に仕える賢者だからな。いつも他の者から敬われ、かしこまられる立場にある。だからこの組合での俺とファニィの立場上、俺がファニィを敬わない態度を取る事に怪訝な顔をするのはもっともだ。
 俺も組合に加入した当初はおとなしくしているつもりだったという事が、随分昔のような気もする。
 ファニィは俺からの情報を、丁寧にメモしていく。そして全て聞き終えると、そのメモを厚手のファイルへ挟み込んだ。
「はいはい了解。似顔絵得意な誰かは後で手配するから、タスク、付き合ってやってね。えー、じゃあこの情報を元に、組合で探り入れるわ。実際にタイガーパールを取り返すのがどのチーム担当になるかはまだ分かんないけど、でもお手柄だよ。タスク、ジュラ。ホントご苦労様」
「うふふ。わたくし、とても頑張りましたの。褒めてくださいます?」
「ジュラすっごく偉いよー。頑張ったご褒美はタスクに美味しいケーキをいっぱい作ってもらってね」
「俺かよ!」
 俺の活躍は完全無視って事かよ。ま、まぁ……あの窮地から無事に戻ってこれたのは、ほとんどジュラさんのお陰なんだけどさ……でもこう、もうちょっとなんか……なぁ?
「やっぱり組合に任せて良かったわぁ」
「ミサオさんにそう言ってもらえると、あたしも頑張った甲斐があるな」
 両手で自分の頬を押さえて照れ笑いするファニィ。
 お前は何もしてないだろうが。口に出したら何倍返しの文句を垂れられるだろうから、ツッコミは心の中だけで口に出しては何も言わないが。
「……あの……」
 いつものごとくジュラさんの膝の上でおとなしくしていたコートが、上目使いに俺を見ている。相も変わらず耳の先まで真っ赤になって、俺にとっては大変迷惑極まりない同性愛趣味の好意の目で見られている。自分で言うのも何だけど、俺の容姿のドコに惚れる要素があるって言うのかね?
 ……まさかとは思うが、男受けする顔か、俺の顔って……? ううっ、考えただけで身震いする。
「あ、あのっ……お、お怪我は……だ、大丈夫……ですか? その……とても大変だったと聞いたので……」
 元々小さい声が、照れと緊張で尻すぼみに小さくなるので最後の方はほとんど聞き取れない。こいつとの会話はやっぱり慣れが必要だな。
「怪我なぁ……多少斬られはしたが、かすり傷と打ち身くらいだな。ジュラさんが呪文詠唱中の無防備な俺を庇ってくれたし。あとは声が涸れたくらいか」
 組合に戻ってきてから半日爆睡したが、まだ俺の声は少し涸れている。
「俺よりジュラさんの方が大変だったんだから、ジュラさんを気遣ってやりな」
「は、はい。あの……ね、姉様のこと、ありがとうございました」
 コートは帽子を押さえてぺこりと頭を下げる。ジュラさんの世話をありがとうって意味だろうか? 世話をしたと言うか、脱出の世話をしてもらったと言うか。
 あー……あの事件の事だけは絶対に秘密だな。コートに知られたら俺の命が危ない。ファニィに知られてもきっとからかわれる。
「じゃあ今日から各自、何日かは適当にお休みにするといいわ。あたしはこの情報回さなきゃならないし、タスクとジュラの完全回復まではちょっと時間掛かりそうだし」
「ああ。助かる」
 とは言っても、食堂のバイトは休めないよなぁ。俺が休んだら、飯が不味いと暴動が起きかねない。ふふん、ちょっと自慢みたいだが、事実なんだから自慢してもいいよな。この組合の人間の胃袋は俺ががっちりキャッチした、とか。

 俺は腕をグルグルと回しながら部屋を出て行こうとする。そんな俺を、姉貴が引き止めた。
「あんた、今日休みやねんな」
 姉貴の耳にある、赤い輝石のイヤリングが光っている。
「今ファニィが言ってたろ」
「ほなウチに付き合い。買いモン行くで」
「はぁっ?」
 突然のたまった姉貴の身勝手な要望に呆れ返って声をあげる俺。
「俺は疲れてんだよ。今日は一日寝る!」
「アカン。あんたに案内してもらわな、ウチ、まだオウカの市場を一人でよう歩かれへんもん」
「コートがいるだろうが、コートが! 姉貴の弟子なんだろ!」
「コートニス君は今日、ジュラフィスはんに返すんや。大仕事終えて帰ってきはってんから、姉弟水入らずにしたらんとアカンやん」
「俺だって昨日帰ってきたばっかなんだよ! 疲れてんだ!」
「あんたに選択権はあらへん。来んかったらシバく」
 ぴしゃりと言い放つ姉貴。この傍若無人な姉貴を誰かどうにかしてくれ!
 叫び出したい逃げ出したい衝動を必死に堪え、俺は……折れた。
「分かった……付き合う……でも頼むから一時間だけ寝かせてくれ」
 姉貴の弟いびりはまさに俺の命に関わる。ガキの頃みたいに、また魔法金属の杖で額をカチ割られるかもしれない。いや、今度は手加減無しの攻撃魔法を回避不能の至近距離からブッ放たれるかもしれない。
 姉貴を黙らせるには、俺が折れるしか選択肢はないんだ。あらゆる意味で姉貴は無敵過ぎる。俺に万に一つの勝機もない。
「そや。ファニィちゃんも良かったら一緒に来てくれへん? ファニィちゃんの意見も聞きたいねん」
「あたしの意見?」
 ファニィは突然のご指名に、目をぱちくりさせて姉貴を見ている。
「姉貴、ファニィを連れていくなら俺は別に必要ねぇだろ。ファニィの方がオウカの事には詳しいんだから」
「あんたは黙り。ファニィちゃん、来てくれはらしまへんか? 仕事、忙しやろか?」
 ファニィは人差し指を頬に当て、くいと首を傾げて思案している。頷くな! 頷くなよ! 絶対にうなず……。
「うーん……そうね。今日くらいはいいかな。じゃあ一緒に行くね。でも先にこれを元締めに渡してくるから」
 ファニィの馬鹿たれーッ! 姉貴の背後にいる俺の必死のアイコンタクトを察しろよ!
「わぁ、おおきにありがとうなぁ。タスクと一緒にここで待ってるわ」
「あああ姉貴! 俺、一時間寝る約束!」
 俺が叫ぶと、姉貴は俺に一瞥くれて嘲笑した。
「黙り。ウチは了承した覚えはない。次に無駄口ほざいたらその口、魔法で溶接したる」
 理不尽だーっ!
 俺が頭を抱えて蹲ると、コートが申し訳なさそうに、だが明らかな同情の眼差しで俺を見てきた。コートにまでそんな目で見られるなんて……うう、俺はなんて不幸なんだ。
「じゃあ、大急ぎで行ってくるね。コートはジュラをしっかり休ませておいてよ」
 ファニィはコートが返事をする前に、軽やかな足取りで部屋を出て行った。
「ではわたくしは寮のお部屋に戻りますわね。コート、参りましょう」
「はい、姉様。あ、あの……ご無理なさいませんように……」
 ジュラさんとコートも部屋を出て行った。俺、すでに死ぬほど無理してるんですけど。ううっ。
 部屋に残された俺は、突然姉貴に腕を引っ張られた。
「あんた、ウチに感謝しいや」
「なんでだよ。仕事から帰ってきて疲れ果ててる弟を勝手気ままに連れ回していたぶる行為のドコに、『お姉さまありがとう』なんていう感謝の気持ちを持てって言うんだよ?」
 俺が文句を垂れると、姉貴は目をつり上げて侮蔑の言葉を浴びせてきた。
「アホ。トロいで。ウスノロ。スカタン。もっと周りをよう見い。頭足らんで」
 言われ放題のサンドバック状態の俺。なんで一言言い返しただけで、ここまで扱き下ろされなきゃなんないんだよ。
「あのさ、姉貴。俺が姉貴に一体何をしたってんだよ? そこまで徹底的に罵倒されなきゃならない理由が分からねぇ。弟をいたぶるのもいい加減にしてくれ」
 寝不足と疲労で機嫌のよろしくない俺は、つい姉貴に反論してしまった。マズいと思った時にはもう遅い……はずなんだが? あれ? 言葉のカウンターがこない。
 姉貴は腕を組んでフゥとため息を吐く。そしてゆっくりと口を開いた。
「あんた、ファニィちゃんの事、好きなんやろ?」
 何の前触れもなく突き付けられた姉貴の言葉に、俺は思わず硬直する。じっとりと背中が汗に濡れて気持ち悪い。姉貴はそんな俺の様子を見て苦笑した。
「あはは。分かりやすいなぁ、タスクは。あんたがオウカを離れたない言う理由の一つに、ファニィちゃんへの気持ちがあんねやろ?」
「ち、違っ……」
 舌が絡まって言葉が出てこない。
「あの子はええ子や。あんたには勿体ないわ」
 姉貴は椅子に腰掛け、足を組む。
「でもあんたみたいなヘタレな子には、あの子くらいしっかりした子の方が向いてるかもしれへんな」
「な、何が言いたいんだよ。お、俺が誰をどう思ってようと、姉貴には関係ないだろ」
「関係あるわ! ウチの妹になんねんで?」
 駄目だ。顔から火が出る。気温はそう高くないはずなのに、俺の全身から気持ちの悪い汗がさっきから止めどなく滲み出てくる。
 姉貴は水鏡の魔法で占術が使えるし、予知夢を見る事もできる。それにジーン一の賢者だけあって異様に観察眼も鋭いから、下手な事をすればバレるとは思っていたが、こうも直球で言い当てられてしまうとは。
「ウチ、買いモンの途中でこっそり席外したるから、あんたファニィちゃんにしっかり告白しい」
 余計なお節介を……。
 そんな事をすれば、今の関係が壊れちまうじゃねぇか。それにファニィはすでに俺の気持ちを知っている。
 俺はどうにか平常心を取り戻そうと小さく深呼吸し、額に手を置いて指の隙間から姉貴をチラリと見た。そして素直に白状した。
「ファニィは知ってるよ……俺があいつをどう想ってんのか」
「なんや、あんたにしては手ェ早いやん。ほなもう接吻くらいしたんか?」
 俺は盛大に椅子から転げ落ちた。そんな俺を姉貴はつま先で突っついてくる。
「ほれ、姉ちゃんに言うてみ?」
 完璧に面白がってるだろ、姉貴ーッ!
「だーっ! できねぇんだよっ!」
「なんや相変わらずココ一番の意気地あらへんなぁ。情けなぁー。ホンマどうしようもあらへん難儀な子やねぇ。ショボい男やで、あんた。親の顔が見てみたいわ」
 あんたの弟だ! 実の! だから親も同じだよッ! とっととジーンに帰って親父たちの顔ガン見て気味悪がられてろ!
「そうじゃなくて! ファニィにはすでに好きな奴がいるんだよ!」
「なんっ? ひゃあ、そうなんか?」
 姉貴が素っ頓狂な声をあげる。
「そうかぁ。あんたフラれたんかぁ……可哀想になぁ……」
 姉貴の憐れみの視線が俺を更に谷底へ突き落す。だからこう、なんで姉貴は俺の言わんとする事の一歩も二歩も先を、盛大に斜め向こうに逸れた思考に辿り着くんだ? 男女関係ドロドロ系の三流大衆雑誌の読み過ぎじゃねぇのか?
「フラれてもねぇよっ! だっ、だから……なんつうか……あのだなぁ……お、俺の事はまともに取り合ってもらえてないと言うか、いいようにからかわれてるだけと言うか……」
 うぐぅ……。まさか姉貴にこんな話を吐露させられる日が来るとは思ってもいなかった。親姉弟に惚れてる相手の話をするって事が、ここまでクソ恥ずかしいものだったとは。
「ファニィちゃんの相手って、ええ男なん? そりゃ、あの子が好きや言うくらいやから、あんたよりよっぽど器量のええ男なんやろね」
「いや、ヒースは組合史上、最低最悪のろくでなしだ。ファニィも認めてるくらいの情けないクソ野郎だ」
 ヒースに対する罵詈雑言ならいくらでも出てくる。俺にとってあいつは元々受け付けないタイプだし、目の前でファニィを掻っ攫われた恋敵な訳だし。
「あんたに言われる程の穀潰しをあの子が? ふーん……もしかして物好きなんか、ファニィちゃん」
「まぁ……ある意味変わり者のゲテモノ好きだろうな。ヒースはあいつの書面上の兄貴だし」
「近親かいな! はぁ、あの子ええ子やのに、ホンマ物好きやねんなぁ」
 姉貴が呆れたように言う。だがすぐに口元に手を当て、首を捻る。
「でもなぁ。ウチさっき、あんたら集まるまでファニィちゃんと話してて感じてんけど、あんたの事、まんざらでもないみたいな感じやったで。だからウチ、あんたはまた臆病風吹かせて怖気づいてる思うて、気ィ利かしたってんけど」
 ファニィが? 俺を? ファニィの事だ。どこか世間知らずなきらいのある姉貴をもからかって面白がってるだけじゃないのか?
 ……いや、さすがにファニィだって自分の立場を理解しない振る舞いはしないか。あいつは組合の補佐官で、姉貴は依頼者なんだから。
「あんたの事やから、ちゃんと好きやって言うてへんのんちゃうん?」
「え、あ……」
 言われてみれば確かに、俺はファニィにちゃんと言葉にして気持ちを伝えていないかもしれない。でもそれにしたって、俺の態度で充分にファニィには伝わってると思うんだが……。その上で、あいつは俺をからかって笑ってやがる。
 姉貴は苦笑しながら俺の額を小突いた。
「女はな。ちゃんと気持ちを言葉にしてもらわんと嫌やねんで。やっぱり今日、二人の時間作ったるさかい、あんたきっちり言う事言い。分かったな?」
「で、でもそんな急に言われたって……」
 突然そう言われても、俺だって心の準備ってものがある。そう簡単に告白なんてできるもんじゃない。
「覚悟決めて腹括り。でないとウチからファニィちゃんに言う」
「う……わかっ、た……」
 姉貴に橋渡しなんかされたら、それこそ後からファニィと姉貴、両方からからかわれるのがオチだ。そんな事は絶対に避けなければいけない。
 こうして俺は、なし崩し的にファニィに改めて告白する事を強要された。

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