延滞魔王城

毒の沼地に囲まれた漆黒の魔王城。
そこに魔王はいなかった──
今日も魔王城では一騒動起こっているようです


なろう版


   2

「で、とりあえずお前は、ほんわか犬コロ映像の時代遅れなビデオテープがデッキから出てこなくなって困ってる、と?」
「うん。返却期日が今日だから、今日中にもう一回見たいなって。だから今日の夜までに返さないと、延滞料金取られちゃう」
 田中はビデオデッキの前でヤンキー座りをしたまま、はぁとため息を吐く。
「別に延滞料金なんかどうでもいいじゃん。むしろ借りパクしちまえよ。魔王なんだし」
「ダメだよぉ! 無返却なんてしたらブラックリストに入れられて、今度からビデオ借りられなくなっちゃう。悪い事しちゃダメって、習わなかった?」

「魔族が悪い事するな、なんて習うか!! つか、しろよ! 悪事! むしろ、して然るべき立場だろうが、テメェ大魔王なんだし!」

 田中はギロリとグレゴリーを睨むが、グレゴリーは平然としている。
「えー……だってこのわんわん特集の次の、にゃんにゃん特集のAVも借りたいし……」
「この後に及んでまだアニマルビデオをAVとほざくか、この口は」
 田中はグレゴリーの頬を左右へと引っ張った。グレゴリーの唇がタラコになる。
「むーっ。田中君はAVの良さを分かってないよ。このヨークシャーテリアのポニーちゃんが、飼い主さんと初めてボールを追いかけっこするシーンなんて、涙無くして見られないよ? もう画面越しに撫でくり回したいほど可愛いもん!」
 熱く熱く語るグレゴリー。

「犬コロ見て涙流してどうするよ、大魔王のくせに!」
 グレゴリーは田中に詰め寄る。
「それ! それなの! ドロシーちゃん、僕がわんちゃん見てほわぁーんとしてたら、大魔王として人間の飼う下等生物を見て微笑むなど威厳がございません≠チて、チーズブールでぶつんだよ。チーズブールって以外と痛いんだ。外側がフランスパンだから」
「俺はドロシーはどっちかってーと嫌な女の部類に入るが、その意見には全面的に賛成だな」
「うわぁん! 田中君なら分かってくれると思ってたのに! 僕の味方はケルベロス君だけだよ!」
 と、ケルベロス君に頬ずりするグレゴリー。
「……その味方に、頬の肉、食われてるぞ」
 ケルベロス君は、新鮮なお肉≠オか食べないグルメな魔ハムスターだった。新鮮なお肉には、飼い主であるグレゴリーも含まれ、基本、見境はなかった。

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