砂の棺

白い砂と高い岩山に囲まれた国、ウラウロー。
傭兵を生業とする青年カルザスは、ある日、謎めいた美麗な詩人シーアと出会う。
この者との出会いをきっかけに、ウラウロー全土を巻き込んだ、過去から連なる歴史と秘密が紐解かれていくのだった。

なろう版

   砂塵の迷図

    1

 ウラウローを囲む険しく黒い岩山。高く険しく、人の侵入を拒む岩山。今まで幾人もの命を奪ってきたその山は、ウラウローの民をこの白き砂の砂漠に閉じ込めている
 だがその中でも比較的傾斜がなだらかな部分に、交易のために造られた山道がある。商人たちはその山道を行き来し、ウラウローと、外の国との交易に精を出す。無事に渡りきれれば、莫大な収益があるのでな。この山道に挑戦する商人は後を絶たない。
 そんな無謀な商人たちのお陰で、ウラウローの民の生活は成り立っておるのだ。

 その山道へ向かう商人や旅人がウラウローで最後に立ち寄る町が、エテルの町である。
 町といっても小さな宿場だ。幾つかの宿と、山を越えるための道具類を売る店とで成り立つ、小さな町。しかし、山越えの重要な要となる町。山道を乗り越える準備はこの町ですることが、旅人たちの暗黙の了解であった。
 エテルの町で、シーアに対する聞き込みを始めてすぐ、奴の足取りを掴む事ができた。あやつの、ウラウローでは珍しい奴の特徴的な容姿──銀髪に紫眼というに特徴に感謝するべきかな。
 いやいや、元はカルザスが妙な真似を起こさねば、シーアを追う事などなかったのだ。感謝だとか安心だとか、そういった感情は関係ない。しかしカルザスめ、どうしてあのような事をしでかしたのやら。
「やっぱり無茶な強行軍をしてますね」
 カルザスは呆れたようにそう口にする。
 シーアはここを訪れてすぐ、満足な休息も取らずに発ったらしい。体力のある者でも難しい岩山越えを、舐めているとしか思えん愚行だ。それほどウラウローを去り、雪の降るという山向こうの国へと急ぎたかったのだろうか? おそらくそうなのだろう。奴が宛にできる者はもう誰も居ない。ならば目的を達してしまう事こそが、奴の唯一の目的であり、執着するものとなろう。
 山道入り口とはいえ、実際岩山に踏み込むにはまだ随分と距離がある。若干だが、砂漠を渡らねばならん上に、通常の旅支度で岩山は越えられぬ。奴は力がさほど無いゆえ、おそらく軽装で山へ向かったはずだ。
 ――どうするのだ? 追って共に行くのか?
「まさか。一度連れ戻して、ちゃんと下準備を整えなくてはいけません。山を越えるための装備は一旦取りに帰って揃えなくちゃいけないでしょう?」
 カルザスは一晩の宿を取り、翌日早々にエテルを出た。奴の足に追い付くためにも、一晩じっくりと休み、こちらの体調を整えたのだ。
「お願いですから……これ以上の無茶はしないでくださいよ……」
 生物の気配がない白き砂漠に、カルザスの足跡は長く伸びていた。

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