砂の棺

白い砂と高い岩山に囲まれた国、ウラウロー。
傭兵を生業とする青年カルザスは、ある日、謎めいた美麗な詩人シーアと出会う。
この者との出会いをきっかけに、ウラウロー全土を巻き込んだ、過去から連なる歴史と秘密が紐解かれていくのだった。

なろう版

     3

 傭兵の斡旋所へとは向かわず、カルザスは宿のすぐ脇にある横道へと入る。そして壁に寄り掛かって宿の入り口を眺めた。まるで誰かに隠れて、何かを監視しているような様子だな。
 ──どうした?
「シーアさんの醸し出す空気が少しおかしかったので、ちょっと……」
 ──奴も言うておったではないか。ここは奴の育った町だからと。口では懐かしむつもりはないなどと言っておったが、やはり過去を思い出して感傷にふけっておるだけだ。何を気にする事がある?
 カルザスはややムッとした表情になり、手の甲で軽く額を叩く。俺を小突いたつもりなのだろうか? カルザスのよくやる行為だ。
「セルトさん、お忘れですか? シーアさんの人生はこの町で狂っちゃったんですよ。シーアさんを拾ったのが裏世界に通じる人だったり、育ての親御さんに精神的にも肉体的にも苦痛を伴う乱暴をされたり、それが原因で裏の世界で自らの手を汚すことになっちゃったり。それほど嫌悪してた町なのに留まりたいと仰るには、何か別の目的があるはずですよ」
 ……冴えておるな、カルザス。やはり妙なところで勘のいい男だ。言われてみれば、確かにその通りなのだ。
 過去の苦痛の思い出が無数にあちらこちらに転がる地で、あえてそれらを妥協してでも遂げたい別の目的があるのだろうか? ならばそれは一体どれほど大切なものだというのだ。我が身を危機に晒す事に値するほどのものなのか。
 奴の考えはまるで読めんが、調べてみる価値はあるだろう。
「シーアさんが行動を起こすなら、絶対に僕がいなくなる今しかありません。そのためにわざわざ遅くなるって言って出てきたんですから」
 俺はすっかり聞き流していたが、シーアならば聞き逃さんだろう。カルザスめ、シーアを罠にはめるとはいい度胸をしておる。

 カルザスの勘はやはり当たった。日が充分に昇りきった頃、シーアが一人で宿から出てきたのだ。しかも普段好んで身につける白いローブではなく、藍色の男物の服を身に着けている。いつもならば背に流しておる長い髪は後ろで一つに纏め、当たり前だが化粧もしておらん。
 いつもは美麗な佳人だが、今、カルザスの前を通り過ぎた奴は、秀麗な男なのだ。シーアには中性的な魅力が確かにあるが、元が良いと男装でも女装でも似合ってしまうものなのか?
 見慣れぬ姿ゆえ、少々どぎまぎしてしまうな。あれは本当にシーアなのだろうか?
「……用心して追いましょう」
 ──充分に距離を取れ。奴に気付かれぬようにな。
 尾行など傭兵のする事ではないが、ラクアに滞在する事を懇願したシーアの目的を知りたいという欲望は、俺もカルザスも抑えきれなかったのだ。

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