恋するあたしと濃い天使

真砂の部屋にいた、見るからにあやしいおっさん!
彼は恋天使《キューピッド》だと名乗り、真砂の恋を応援したいと申し出るが……見た目が怪しすぎる……。


   1  “ソレ”との遭遇

 真砂は硬直していた。そして思考は目の前で起こっている出来事の認識を、全身全霊を以もって断固拒否していた。
「ガンバレ! ガンバレ愛美チャン! 今デス! 早く次の言葉を言うのデス! ワタシが応援していマス! 勇気を出すのデス、愛美チャン!」
 野太いおっさん声の茶色い声援。これが女性ならば、黄色い声援となるのかもしれないが。
 一人フィーバーしているおっさんをスルーして、パタンと静かにドアを閉め、ゆっくりと数回深呼吸する。そして階段から続くドアの数を指差し数え、この目の前のドアが、間違いなく自分の部屋であることを再確認する。

 ガコン!

 わざと自分の頭を壁に打ち付け、痛みに涙を滲ませつつ、夢でないことも再確認する。もう一度大きく深呼吸し、鞄の中から携帯電話を通り出して握り締め、勢いよくドアを開いた。
「ヤッター! やりましたヨ、愛美チャン! 勇気を出せば想いは通じるのデス! ブラボォウ!」
 室内は、本日一番の大盛り上がりの大賑わい。涙を流しながら、“ソレ”は真砂の愛読書である少女漫画を高く掲げて踊り狂っていた。ドスンドスンと、床を激しく踏み鳴らしながら。
 真砂はすぅっと大きく息を飲み込み、肺活量検査のごとく、一気に息と声とを吐き出していた。

「あんた誰よおおおお!  なんでヒトの部屋でヒトの少女漫画読み漁ってんのよおおお!」

真砂は室内にいる“ソレ”より大きく高らかに叫び、携帯電話から、通報用電話番号“110”番を片手で器用にプッシュした。
 彼女の登場に、“ソレ”は「キャッ」と可愛らし……否、野太く悲鳴をあげ、持っていた少女漫画を、自分の足の小指の上に落とした。

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