Light Fantasia

オウカという国には各国から腕自慢が揃う冒険者組合がある。
名(迷)物補佐官でありながら冒険者でもあるファニィ、美貌の怪力美女ジュラフィス、
健気で超天才児のコートニス、生真面目で世話やき基質のタスク。
凸凹四人組が織りなすハチャメチャファンタジー!


       6

 俺はすっかりエイミィに嫌われてしまったようだ。
 ちょっとした事でコートを泣かせたせいで、エイミィはことごとく俺を敵視するようになった。廊下ですれ違おうものなら、さっと自分の体を盾にしてコートを俺の視界から隠し、コートの日課である厨房での俺の姿ののぞき見も、しっかりきっちりエイミィが同伴だ。で、うっとり俺を眺めるコートの後ろから、可愛い顔に目一杯の敵対心を浮かべて俺を睨み付けている。
 そりゃ別にコートと二人で会いたいとか思っちゃいないが、あれだけ付きまとわれていたコートがいないのも、なんかこう、ちょっと物足りないというか落ち着かないというか。
 俺は豆の茶を啜りながら、目の前のファニィとジュラさんを見た。この二人もどうやらエイミィがコートから遠ざけているらしい。
 彼女はコートと同じでおとなしい性格かと思っていたが、意思はかなり強くてしっかり者の行動派。口が利けたらきっとファニィと意気投合するんじゃないかって感じかな。まるでコートの私兵か番犬だ。

「コートがちっともわたくしと遊んでくれませんの。わたくしショックでお食事が喉を通りませんわ」
 ジュラさんがそう言いながら、二箱目のクッキーの箱を空にする。この勢いで毎日菓子を平らげてるんだ。飯が入らないのは当然だと思う。しかしそれでも俺やファニィ以上に、一度に食う飯の量は多いんだが。
 本当にこの人、相当な量の飯を食うのに太らない体質なんだなぁ。のんびりした……いや、能天気な性格だからストレスとも無縁そうだし。
「あたしも仕事手伝ってもらおうと思ってここに来たんだけど、なんかここ、コートに相手してもらえない同盟の掃き溜めみたいな感じ?」
「うるさい。お前は仕事あるなら、とっとと執務室に戻れ」
「休憩くらいさせてよ」
 ファニィは自分でカップを取ってきて、ジュラさんの前にあるティーポットからハーブティーを淹れる。
「エイミィって、結構積極的な子だったんだね」
「だな」
「コートを一発で男の子だと見抜いてたっていうのも驚きだけど、でもなんかかなり押せ押せムード? エイミィ、コートの事がすっごい好きみたいね」
 ファニィは両手でカップを持って、ハーブティーを啜る。
「そうなんだよ。あれくらい気の強い女の子ってのは、『デモ・ソノ・エット』って感じのコートみたいな気弱なのが好みなのかねぇ?」
 エイミィがコートに好意を寄せているというのは、傍で見てれば一目瞭然だった。コートにちょっかいかけるような奴には、エイミィの平手打ちや脛蹴りが容赦なく飛んでくる。俺なんか、最初の平手打ちを皮切りに、事ある毎に睨まれ蹴られしている。非力な小さい女の子だからさほど痛くはないんだが、露骨な敵意剥き出しの攻撃は、精神的にかなり『クるもの』がある……。
 だから俺はコートに対しての気持ちは、ただの弟分としてしてか見てなくて、コートが一方的に傍迷惑なソッチの目で見てるだけじゃねぇかよぉ……。

「完璧な三角関係勃発よね」
「面白がって言うな。俺が一番被害被ってんだから」
「コートがわたくしとお話ししてくれませんの。わたくし悲しいですわ」
 ジュラさんが三箱目のクッキーを平らげてぼやいた。
「あはっ、四角関係ね」
「だから面白そうに言うな!」
 完全に蚊帳の外のファニィが面白がって笑ってやがる。くそっ、こいつの減らず口、絶対いつか黙らせる。

「俺はとにかくエイミィからの敵視をどうにかしたくてだな」
「コートのタスク・ラブは筋金入りだもんねぇ。エイミィ可哀想」
「あのなぁ、コートだってまんざら……あれ?」
 俺はエイミィに最初の平手打ちを食らった時の、魔法講義の時の様子を思い出した。
「どうしたの?」
 ファニィが小首を傾げる。
「……もしかしてコートの奴、エイミィの事が好きなんじゃないか?」
「なんで? ちゃんと日課のタスク観察日記は付けにくるんでしょ」
「そんなモン付けられてたまるか。いや、とにかく聞けよ」
 俺はポンポンとファニィの肩を叩く。
「俺さ、エイミィにちょっと行き過ぎた質問を投げかけたんだよ。そしたらあのコートが必死になってエイミィ庇って、俺に抗議してきたんだ。あのコートがだぜ? もしかしたら無意識にでもエイミィに好意抱いてて、惚れた女を守ろうとしたんじゃないか?」
「タスクに反論? コートが?」
 ファニィも心底驚いた顔をして俺を見る。
「それはちょっと驚きね」
 ファニィが腕組みをして考え込む。そしてチラリと俺を見た。
「タスク。あんた、コートに捨てられて平気?」
「どういう意味だ、どういう!」
「あはは、ごめんごめん。つまりね。コートがタスクを好きって目で見なくなっても平気かって意味」
「何度も言ってるが、俺は至ってノーマル。コートの趣味と同一線上に俺を当てはめるな」
 ファニィはパチンと指を鳴らして、俺を指差してきた。
「よし。じゃあコートとエイミィをくっつけちゃう作戦兼、新しい仕事の依頼よ」
 ファニィが立ち上がり、ジュラさんと腕を組んだ。
「ラシナ関係で一件、コートの助けを借りないとこなせない依頼があるの。その依頼をこなしつつ、コートがエイミィをどう思ってるか確認できると思うわ。ジュラ、コートにちゃんとした彼女できるかもよ」
「コートはわたくしの弟ですのよ」
 ジュラさんが不満を述べながら、四箱目の……あ、いや、五箱目のクッキーの箱を空にしていた。
マジで一度ちゃんと聞きたいんだが、大食いで間食しまくりのジュラさんだが、モデル真っ青なその素晴らしいプロポーションを維持しつつ、どこにそんだけの食い物が入るんだろうか? 胃袋が魔界の底なし沼にでも繋がってるか? 謎だ。
「もちろんそれは変わんないよ。でもちょっとくらい、弟離れしなよ」
 ファニィは何かを企むような笑みを浮かべて、ジュラさんの額を突っついた。

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