LOST PRINCE

「死を意識するなんて何度目だろう?」
スラムで育った少年フェリオは、腕の中で冷たくなってゆく少女を抱きしめながら、そう思う。

豪胆な女性マーシエとの出会いが、
スラムの孤児であったフェリオの運命を大きく変える。


  エピローグ

「本日この時をもって、この国は、我、デスティン・ケイブ・ヴァクレイトと、弟、オーベル・パウル・ヴァクレイトの二人で統治する事とする! 互いを助け合い、国民のために尽力すると、先王と神に誓う。民たちよ、これからよりよく作り上げられる新しい国に期待をしてほしい」
 デスティンが剣を掲げ、その背後で顔を隠すためのヴェールをかぶったフェリオが、オーベルの残したメイジスタッフを掲げる。その手にはマーシエの長手袋がはめられていた。
 ──彼女と自分を繋ぐ、たった一つ残った形見だから。

 デスティンの宣言は、新しい国の誕生だった。

「〝オーベル〟、これでいいな?」
「はい。〝兄上〟」
 フェリオはオーベルの影として、デスティンの言葉に同意を示す。彼を見守るように、王座の左右には、ヘイン、アスレイ、ジョアンが控えていた。
 孤児だった彼を主君としたマーシエはいない。彼女はオーベルと同様に、死体に戻り、灰となって消えてしまったから。

 フェリオからオーベルとマーシエの最期を聞き、ヘインやアスレイは大いに動揺した。そして説明する彼の傍らにいるデスティンに、恐れ慄いていた。
 しかしフェリオは見聞きした全てを彼らに話し、これからデスティンと共に新たな国を作る事を約束した。そしてこれまで同様に、彼らには、まだまだ未熟なフェリオの教師となり従者として仕えてくれるよう頼み込み、了承を得た。
「フェリオ君。立派になられて、きっとマーシエ様もお喜びです」
 ジョアンは目元を拭い、もう彼の前に現れる事のない女騎士に、空に、彼の立派な姿を報告した。

 デスティンの決起の言葉に、国民は沸いた。デスティンを支持していた国民は、彼の変わらぬ勇姿に歓喜の声援を。オーベルを支持していた国民は、今まで姿を眩ませていたオーベルが、ヴェールをかぶった姿で登場した事に安堵と喜びの声を。
 対立していた二つの軍が、新しい一つの国へと踏み出した。

 国民は知らない。狂気に駆られたオーベルがもういない事を。彼らの目の前にいるオーベルは、スラムの孤児だった事を。
 フェリオは鳴り止まない拍手と声援を受けながら、心の中で再度誓った。自分やピオラのような孤児のいない国を必ず作ってみせると──

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