迷路

「特設お化け屋敷」
そんな時期はずれな催しが、最寄りの遊園地で開催だそうだ。
アスミがどうしてもというので、俺たちは遊園地にやってきたんだが……。


「今、遊園地で特設お化け屋敷やってるんだって! 一緒に行かない?」
 アスミが突然言い出した。
「特設お化け屋敷? お化け屋敷っていったら夏だろ。なんでこんな時期はずれに」
 今は絶賛冬。おばけでひんやりする季節じゃない。
「でも特設っていうからには、すごい仕掛けとかあるんじゃないの? トリック・オア・トリートみたいな」
「ハロウィンだってもう過ぎてるんだぞ。きっとただの客寄せで、大して面白くないんだよ」
「えー! でも行きたいよ!」
 アスミはしぶとく食い下がる。俺は根負けしてアスミと一緒に遊園地へ行くことになった。

 遊園地はいつも通り閑散としていて、俺の嫌な予感はますます大きくなる。これ、完璧に失敗企画じゃねぇの?
「特設お化け屋敷はどこかなー?」
 アスミは嬉しそうにしていて、客の少なさに気づいていない。気楽な奴だ。
 俺は会場マップを確認しながら、特設お化け屋敷とやらを探してみる。あった、この隅のやつだろう。
 アスミを案内しつつ、俺は仕掛けに呆れる未来を想像してうんざりする。絶対企画倒れだよな、この客の少なさが物語っている。
 特設お化け屋敷の入り口で大人券二枚を買い、いざお化け屋敷へ。
 夏によくあるお化け屋敷と対して変わらない。これは完全に騙されたと思った矢先、地下へ潜る階段が表れた。
 遊園地のお化け屋敷に地下階段? これはめずらしい。だって上へ登る事はあっても、地下へ潜るアトラクションなんてないんだから。
 俺もちょっと期待してきた。

 階段を降りると、何もない部屋へと出た。正面に扉があるだけだ。アスミは迷いなくその扉を開ける。
 扉の先には左右に扉。どうやら部屋を渡り歩く迷路になっているらしい。全然お化け屋敷じゃないじゃないか。
 だけどこういった迷路はなかなかに面白い。俺もアスミも夢中になって扉を開けて先へ進んだ。
 どれくらい進んだだろうか。かれこれ三十分以上はウロウロしている。出口はまだ無い。俺は妙に焦りだしてきた。
「アスミ。出口はまだか?」
「えー、分かんないよー」
 アスミも、この地下の迷路から出られず、すっかり迷子になっている事に焦りだしてきているらしい。
「途中リタイアとかできないのか?」
「それっぽいスイッチとかないよね。扉と部屋ばっかり」
 俺たちはどんどん先に進みながらリタイヤスイッチを探す。入ってきた入り口も分からなくなってしまっているから。
「これ、絶対おかしいって! おおーい! リタイヤさせてくれー!」
 俺は大声で叫んだが、室内に声が響いただけだった。これは本気でマズい。出ることができない。
「涼介、どうしよう」
「とにかく進むんだ。右手をついて進めばいつかは出口につくって言うだろ。それを試して……」
「わーん、怖くなってきた。足も疲れた」
「とにかく進め。こんな所で立ち止まってられないんだから」
 俺たちは永遠とも言うべき、無数の地下迷路を進むのだった。永遠になさそうな出口を目指して。

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